コンテンツ配信会社がDRMを見限ったとは誰も言っていない

 今回のEMIによる発表では、「全世界(Worldwide)」という点が強調されていて、携帯電話向け音楽配信に関しても全世界でDRMの運用をやめる意向のようだ。

 しかし、果たして、この動きに日本国内の携帯電話キャリアやコンテンツ配信会社が賛同する可能性はあるのだろうか?

 今回のEMIの発表で注意したいのは、同社が全世界向けにDRM無しの音源を提供する意志のあることは間違いない事実だとしても、その音源をエンドユーザー向けに流通させるコンテンツ配信会社側が同じようにする義務はないという点だ。

 どういうことかというと、コンテンツ配信会社がDRMの運用を継続しようと考えるのであれば、EMIの音源でもDRMが付いたまま販売できるということ。事実、AppleiTunes Storeでは、DRM付きの音源とDRM無しの音源が併売されるようだ:

"We are going to give iTunes customers a choice --- the current versions of our songs for the same 99 cent price, or new DRM-free versions of the same songs with even higher audio quality and the security of interoperability for just 30 cents more," said Steve Jobs, Apple's CEO.

Appleのプレスリリースから)

 つまり、EMI側がDRMを廃止しようがしまいが、実際にどうするかはコンテンツ配信会社の都合次第ということになる。

 ガチガチのプロプライエタリDRMを実現しておきながら、ゆるいDRMで頑張っているPC向け音楽配信よりもはるかにビジネスとして軌道に乗っている「着うた」業界が、今さらDRMをやめるなんていうことはちょっと考えにくいような……。

 まぁ、あまり悲観的な考察ばかりしていてもしょうがないので、最後に前向きな話を一つ(笑)。

 Gizmodoの4月2日付け記事「Apple Playing Second Fiddle: DRM Free Tracks Were EMI's Grand Idea」(これはEMIのJeanne Meyer氏に直接インタビューしたもので、非常に興味深い内容。おそらく日本語版でもこの記事はそのうち翻訳されると思われる。)によれば、EMIが今回のDRM無し販売を決めた一番の理由は、消費者がそれを望んでいることが調査で判ったからとのこと。つまり、我々ユーザーが文句を言い続けたからこそ、DRMは無くなった訳だ。これは非常に重要な話だと思う。また、EMIは、DRMの運用をやめることで海賊盤が今後増加したとしても、それ以上に正規の売上が伸びると予測している模様。