オリコンチャートとレコード輸入権の関係を考える

 某掲示板で指摘されていたので、久しぶりにオリコンの週間アルバムチャートを見てみて驚いた。6/14付けで上位30位のうち、邦楽タイトルが占める数は半分以下。アヴリルのアルバム「アンダー・マイ・スキン」にいたっては、5月の4〜5週と2週連続で第1位を獲得していて、10年前じゃ想像できない事態。

 実際のところ、オリコンが洋楽で輸入盤をカウントしだしてからこの傾向は顕著だったけれど、ここまで洋楽が常に上位へランクインする状況になるとは思ってもいなかった。で、よく考えてみたら、この状況は、洋楽カタログの販売元である欧米レコード会社から見ても、かなり驚くべき事態として注目されているはずなのだ。そのあたりを以下に考察してみる。

 まず、レコードレンタル問題で破綻して以降、今から数年前までは、「洋楽は売れない」というのが、日本のレコード会社洋楽部門での常識であり、なおかつ、欧米にある親会社も、日本からのそうした報告を信用した上での認識だったはずだ。ただ、実際のところは、欧米側から見れば、輸入盤の出荷数増加や外タレ公演の成功(頂点は、日本で成立しないと言われたロックフェス「FRF」の成功あたりか)を考えると、疑問を感じていた可能性もあるだろう。

 じゃ、「洋楽は売れない」という根拠は何だったのか? それは、日本レコード界の業界スタンダード「オリコンチャート」だろう。輸入盤をカウントする以前のオリコンチャートで、洋楽タイトルを上位10以内とかに押し込むのは至難の業で、J-POP全盛の90年代では、希有な例外をのぞいてまず不可能だった。

 さて、欧米本社がビジネス状況を把握する際に見るのは数字だけ。つまり、日本支社から伝えられる売り上げ枚数と、参考情報としてのオリコンチャートになる。何がどういう形で売れているかといったような現場情報は、さらに些末な備考でしかない。

 自国以外でのマーケットにおいて、それほど「売れていない」カタログに関して、なぜ売れないかということを熱心に考察するのは、よほどの物好きな経営者だけだ。気にするのは、「売れている」ものだけ。だから、日本のナショナルチャートで上位にランクインできないということは、「洋楽」という存在自体が日本の市場には向いていないと認識していたろうし、その改善策は日本支社の現場に任せていたと思われる。

 ところが、一体どこの誰の意志によるものなのかは判然としないのだけど、ある日、オリコンチャートは洋楽カタログに関して輸入盤をカウントするようになった。まぁ、個人的には、その方が自然だとは思うけれど、このカウント方法の変更は大きな変化をもたらすことになる。幸か不幸か、邦楽カタログの売り上げ不振も手伝って、相対的に洋楽カタログは急激な勢いでチャート上位へ表出する形となった。

 日本のナショナルチャートで、洋楽カタログが、常時高いチャート順位を占めるようになれば、欧米レコード会社の経営陣は当然のようにビジネスプランを考え直すことになる。つまり、「洋楽は売れない」という認識は間違っていたと。金儲けに対して良くも悪くも貪欲な欧米企業のメンタリティーを考えれば、ここ1年ぐらいで日本における洋楽ビジネスの在り方をかなり検討したことと想像される。

 例えば、本当に日本先行発売は意味があるのかとか、ボーナストラックは必要なのかとか、国内盤と輸入盤が併存するのは何故かとか…。

 その結果として、レコード輸入権を設けて、収益率の一番高いビジネスプランを実行できるようにしようとするのは、当然の事の成り行きだろう。おそらく、収益率を考えるが故に、すべてのカタログで輸入盤の流通を止めることはないけれど、逆に日本マーケットで間違いなく「売れ線」と見なされるカタログは、国内盤のみを流通させるという事態も発生しそうな気がする。洋楽カタログの売り方を最終的にコントロールできるのは、あくまでもその権利者である欧米レコード会社だから。