「還流盤輸入規制は陰謀説(笑)」という視点で考えてみる

 国内音楽産業保護のための還流盤輸入規制というのは、おそらく体の良い言い訳なのではないかと思う。この裏にある真意は、アジア現地での音楽ソフト製造と販売を実現し、貿易行為(=日本からの輸出盤)では過剰なダンピングと指摘されるような極端な価格戦略を行うための下地作りっぽい。

 いみじくも、昨日の質疑応答で日本レコード協会会長が指摘した、国内での価格競争(笑)における最低価格300円が、アジア圏における新譜の平均価格なのかもしれない。(もちろん、同じ新譜が日本国内ではDVD付きで3500円とかになるわけだが…)

 つまり、アジア各国における現地音楽産業を淘汰すると同時に、市場制圧を実現するに足りる破壊的な価格戦略を実施するにあたり、WTO等から抗議される可能性を排除してるだけ。こうすることで、「知財立国・日本(笑)」発の音楽ソフトが、簡単にアジアで席巻できると考えているようだ。

 しかし、実は欧米の5大メジャーと呼ばれる人達も同じようなことを考えている訳で、そのために法的な問題が生じない状況作りに動いている。その一環として、RIAAは、日本のレコード輸入権創設を建前上賛成しており、結果として自分たちのアジアでの破壊的な価格戦略を正当化できる次第。

 今後2〜3年後には、日本盤よりも品質の高い洋楽ソフト(ここでは欧米アーティスト作品の意味ね)が、アジア各国で生産され、安価かつ大量に流通する可能性が高い。結果として、アジア各国における現地音楽産業は、かなり大きなダメージを受けるだろう。そのとき、値段が安くて高品質なアジア盤は、残念ながら日本へ輸入することは法的に不可能だろうし、日本レコード協会文化庁が目指した輝かしい「アジア進出」も大失敗に終わっているなんてことになっていそうだ…。


6月1日の衆議院文部科学委員会

 facethemusicさんのblog上にまとめられた各種情報を参考にしながらビデオを見る。

 見終わって、自分なりに色々考察してみたけど、ここにきてようやく頭の悪いオレにも判ってきたことがある。依田巽氏を筆頭にした日本レコード協会RIAJ)や文化庁は、「必ずや日本の音楽産業はアジアでビジネス的に大成功する」という(根拠なき)信念があるということ。これは、依田氏の答弁が最終的にすべてこの考え方につながっていたので明らかだ。

 そして、アジアでのビジネスを軌道に乗せるためには、アジアにおける邦楽作品の流通コントロールを完全にしなければならないと考え、その方策として「輸入権」という答えを出したということ。

 この時点で彼らは、輸入権が洋楽ビジネスにどう影響するかなんてことは一切考慮してなかったのじゃないか? というのも、日本のレコード会社にとって洋楽というのは、多品種少ロットで面倒な割には売り上げが少ないという、あまり美味しい商売じゃないから。このあたりは、レコード会社の人間が一番自覚しているはずで、今時の洋楽制作担当なんて社内の風当たりがかなりきびしいと思う。

 だから、邦楽中心で思考している輸入権推進派にしてみれば、簡単に成立できるはずだった法案が、こんな風に社会問題にまで発展してしまったのは計算外ということなのだろう。逆に言えば、洋楽ビジネスの部分も考えていれば、こうまでボロボロな展開にはなっていなかったのかもしれない。

 そうしてみると、実はRIAJも「面倒で売れない」洋楽ビジネスは輸入盤で適当に処理したいと考えているように思えてきたし、逆に、5大メジャーが本当に輸入権を発動したりするとかなり困るんじゃないですかね、依田会長?(笑)

 ここで話は最初に戻るけれど、日本の音楽産業がアジアでビジネス的に大成功するという考え方はあまりに根拠が希薄であるし、これを理由に著作権法を歪めてしまう行為は許されざるべきものだ。

 最後にオマケで質疑に登場した各議員についての感想を:

 自民党伊藤信太郎議員の言動を見ていると、レコード輸入権に対して若干の疑問を感じていながらも、個人的な興味という観点からの質疑だけに終始したという感じ。良くも悪くも、自民党というのは懐が深くて、こういう人もいるんだなぁと変なところで感心した(笑)。

 民主党川内博史議員は、今日も多くの問題点を明らかにしており、素晴らしいです。この調子でガンガン行って欲しい。

 社民党横光克彦議員、この人はレコード輸入権に対する疑問を表明しつつも、何だかちょっと迫力に欠けたし、気になったのは、終わり方が礼を失した感じだったこと。

 公明党富田茂之議員に関しては何も語るべきものなし。結局、公明党にとっては、学会員以外は「知らない人」であり、そういう人達から意見が届けられても相手にしないということを明確に表明してくれただけ。このような政党が、与党勢力の一端を担っているという現実は非常に問題だと思う。

 共産党石井郁子議員は、「何でこんな人が政治家やってるの?」という感じだな…。

 さて、明日の審議はどうなることやら。